イントロダクション

荻上直子、第二章

『かもめ食堂』『めがね』などで、日本映画の新しいジャンルを築いてきた荻上直子監督の5年ぶりの最新作『彼らが本気で編むときは、』は、編み物をモチーフに、今日本でも急速に関心が高まりつつあるセクシュアル・マイノリティ(LGBT)の女性リンコを主人公としていち早く物語に取り込んだ。監督自身「この映画は、私の人生においても、映画監督としても、“荻上直子・第二章”の始まりです」と公言する、新しいステージに踏み出した作品である。

脚本は荻上監督のオリジナル。きっかけは、双子の母となった監督が家族で過ごしたアメリカでの生活にあった。20代の6年間を過ごしたアメリカへ12年ぶりに渡った。当然のごとく監督の周囲にはセクシュアル・マイノリティの人たちが存在していた。その後帰国した日本で、身の回りのセクシュアル・マイノリティ率が減ったことに違和感を覚え、さらに「性は男と女だけじゃない」という新聞記事を目にしたことが、監督を新たな映画作りへと向かわせた。

荻上直子×生田斗真×桐谷健太、そして才能を開花させる新星の天才子役たち

まだ戸籍は男性ながら女性の体を手に入れた、本作のヒロインであるリンコには生田斗真。『人間失格』 『脳男』『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』など、さまざまなキャラクターに果敢に挑んできた生田は、男性性を強く感じさせる俳優といっていい。「他には考えられない」との監督たっての希望でキャスティングが実現したが、これまでを遥かに超える挑戦になった。強い意志を持ってあらゆる困難に立ち向かったからこそ得た真の優しさと思いやりを持ったリンコを、繊細に体現している。

リンコの恋人マキオには、人気実力ともにうなぎ上りの桐谷健太。トランスジェンダーの恋人を持つ難しい役どころだが、悩みながらもリンコの人間性を見抜き、全てを理解し受け入れる、懐の深い男性を演じきった。生田も桐谷も、本作を「自分たちのターニングポイントになる」と口を揃える。

さらに本作は小さな少女がけん引している。母親に家出され、リンコとマキオのもとへとやってくるマキオの姪っ子トモだ。この重要なキャラクターに、オーディションを経て抜擢されたのが、本作で映画本格デビューとなる柿原りんか。難役を感情豊かに表現し、観る者の涙を誘う。

また、同性である男の子に恋心を抱き悩む、トモの同級生カイに扮する込江海翔も、新鮮な印象を残す。

ミムラ、小池栄子、門脇麦、りりィ、田中美佐子ら豪華な共演陣

共演陣も豪華だ。トモを置いて男のもとへと走る母ヒロミ役で新たな顔を見せるミムラ。リンコに強い偏見を持つ、カイの厳格な母ナオミ役に小池栄子。マキオとヒロミの認知症を患う母サユリ役にりりィ。老人ホームで働くリンコの同僚の佑香役に門脇麦。心と体の違和感に悩むリンコの良き理解者として、傍らでずっと支え続ける母フミコ役に田中美佐子。申し分のない顔ぶれが集結した。

また、荻上監督作品に欠かせないスタッフのひとりであるフードスタイリストの飯島奈美が本作にも参加。「家族」が重要なキーワードのひとつである本作の中で、食卓を彩るリンコの数々の美味しい手料理は、トモの心を温め、母は決して与えてくれなかった家庭の温もりや安らぎを感じる団らんのひとときを与えている。

人生のパートナーの域にまで辿り着く、リンコとマキオの深い恋愛。性に悩むリンコのためにニセ乳を作る母フミコの母性愛。サユリ、ヒロミ、トモの3世代に渡り、上手に親子関係が築けず悩みながらも、子守唄が繋ぐ微かな親子愛。息子を愛するがゆえにすれ違うナオミとカイ。現代のさまざまな家族の形を物語に編み込みながら、優しい眼差しで、自分と異なる人を認め、多様な生き方や価値観を尊重する、平和な社会になって欲しいという、荻上監督の熱い願いが込められた極上のエンターテイメントである。

(※ トランスジェンダーとは、一般的に性自認が身体的性別と対応しない状態や人を指すが、その概念を言い切ることは困難である。)